海外で活躍する卒業生

[精神科医(スウェーデン)]

医療に関心を持つようになったきっかけ

 地球市民学科の卒業プレゼンテーションで、製薬会社とNGOの対立について取り組んだことがきっかけで医療に関心を持つようになりました。卒業後、製薬会社に2年半ほど勤めた後、医師になることを志望してルーマニアの国立大学の医学部に入学しました。2013年にルーマニアの医師免許を取得し、翌年には欧州における職業資格の相互承認制度によりスウェーデンの医師免許も取得しました。現在はスウェーデンの公立病院の精神科で働いています。
勤務先の公立病院【勤務先の公立病院】

精神科のアプローチと地球市民の在り方との共通点

ルーマニア留学中のクラス写真【ルーマニア留学中のクラス写真(最前列中央がA.H.さん)】
 精神科では患者とその方の抱えている病気を心理的側面、社会的側面、身体的側面といったあらゆる視点から総合的に診て、患者が仕事や家庭、学業など、以前のような生活に戻ることを治療の目標としています。このアプローチの仕方に地球市民の在り方との共通点を見つけ、精神科を志望するようになりました。人に精神科で働いていると言うと、言葉の壁や文化の違いがあるから難しいのでは? とよく聞かれます。確かに他人のことを理解するのは簡単ではありませんが、患者の話す言葉や文化的背景が分かることが不可欠であることを踏まえながら、他にも意識していることがあります。

 私がルーマニア留学中に暮らしていた地域には、ハンガリー人やロマの人々が合わせて3割程いて、大学で在籍していたクラスでも、世界中から様々な文化背景を持った学生が学んでいました。また、現在暮らしているスウェーデンは、移民や外国人労働者、積極的な難民受け入れによって人口の2割程が外国にルーツをもち、その民族構成は多様性に富んでいます。このような環境に身を置いていると、日本人であることを日常的に意識せざるを得ませんが、私が接する相手にも、無意識に出身や文化的背景といったフィルターをかけてしまいます。しかし、フィルター越しに相手を見てしまうと心理的な距離は縮まらず、たとえ言葉が分かったとしても相手のことをよく理解できないように思います。スウェーデン人だから…、うつ病患者だから…というバイアスや先入観をできるだけ避けるために、例えば、友人はスウェーデン人である前にマリーであり、目の前の患者はうつ病患者である前にヨセフなのだと、一個人を意識して接するように心がけています。

 在学中に受講していた異文化コミュニケーションの授業で知った「一個人も異文化としてとらえることができる」という視点がとても印象に残っていて、その学びがまさに今の仕事に生きていると感じます。

地球市民の一員として、仲間と力を合わせて専門知識や経験を活かしたい

 今後はスウェーデンで精神科医としての経験を積みながら、臨床研究と関連させた社会問題への取り組みに参加していきたいと考えています。以前、地球市民学科の先生が、「必要な時に集まって、力を合わせて物事に取り組み、それが終わればまた各々のフィールドに戻っていく。それが地球市民の集まりですね。」と仰っていたのですが、今は仲間や恩師の先生方と一緒に専門知識や経験を活かしてどんな活動ができるか模索しながら、期待に胸を膨らませています。
A.H.さん

[精神科医(スウェーデン)]

ヴェストラ・イェータランド県の公立病院
NU-Sjukvården Norra Älvsborgs Länssjukhus
A.H.さん
2005年 地球市民学科 卒業
東京都立 南多摩高等学校 出身

*掲載内容は取材当時のものです。