ゴンゴラ作品集









<解説> 文学部教授 吉田彩子


 スペインの詩人ルイス・デ・ゴンゴラ(1561〜1621)の作品は、多くが、発表されるやいなや論争と評釈の対象となった。
ほぼ17世紀全域にわたって書かれた膨大な文献とその著者たちのことは、現在、ゴンゴラ研究の一領域と認識されている。

これらの評釈の殆どは現在も手稿のままで古文書室に眠っており、出版されたのはホセ・ペリィセール・イ・トバール José Pellicer y Tovar(1630年)、クリストバル・デ・サラサール・マルドネス Salazar Mardones(1636年)、そしてガルシーア・デ・サルセド・コロネル García de Salcedo Cornel による、三点にすぎない。
サルセドは、詩人の死からわずか二年後の1629年に『ポリフェモ』 Fábula dePolifemo y Galatea の評釈を出版したが、1636年、これに『孤独』Soledadesを加えて第一巻とした。
第二巻(ロマンセやソネットなどの小品を収録)は44年と48年に、二部に分けて出版され、全二巻三冊の構成となる。他の二人に比べて圧倒的に広範な作品をカヴァーしているので、難解で知られるゴンゴラの作品解読になくてはならぬ基礎文献だが、大著であることが災いしてだろうか、ペリィセールは復刻版が出たのに、サルセドに関してはそんな気配もなく、原本を持たない研究者はマイクロフィルムだけが頼りである。

本学図書館に原本を購入できないだろうかと思ったのは、昔、恩師エミリオ・オロスコの書架に三冊揃っているのを見た記憶があり、時を経て、たまたま訪問したフランスのゴンゴラ学者ロベール・ジャムの書架でも、同じものを目にしていたからだ。

マドリッドの国立図書館にも複数部確認しているので、比較的手に入りやすいだろうと思ったのは、判断が甘かった。数年かけて探したが、第一巻だけしか見つからなかった。
あらためてシモン・ディアス José Simon Díaz の『スペイン文学文献』Bibliografíade la literatura española(第11巻,1976年)を見ると、三冊揃っている図書館は世界に10箇所ほどしかない。決して多いとは言えないだろう。

第一巻については、大学図書館で所蔵しているのは、ハーヴァード、パリ、グラナダ、サラマンカ、セビーリャ、そしてサラゴサの六校だけである。シモン・ディアスの改訂版がでることがあれば、これにUniversidad de Seisenが書き加えられるはずだ 。同じ時に、Hoces版のゴンゴラ作品集『Todas las obras de Don Luis de Góngora』が見つかった。17世紀中にもっとも普及した版で、サルセドと同じ個人の蔵書にあったと考えられる。所有者は、どこかの著名なスペイン文学研究者だったのだろうか。おそらくは相続人の決断から東洋に渡ることになった二冊の古書には、見知らぬひとのゴンゴラへの並々ならぬ関心がしのばれて、感慨深いものがある。