| ケルズの書 |
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<解説> 文学部教授 高田恵利子 『ケルズの書』は西欧最高の写本であり、アイルランドの国宝というよりは、「世界の宝」と呼ばれるものです。 オリジナル写本は、首都ダブリンのトリニルームと呼ばれる図書館にある防護ケースの中に展示されています。そこには、何万という人々が毎年訪れ、その神秘と美の世界に魅せられています。 とりわけ夏になると、19世紀半ばの大飢饉以来に大量の移民が書物のケースの前には、長蛇の列ができると言われています。 この『ケルズの書』の名は、ミーズ州、ケルズの町の修道院に由来します。 制作されたのは、スコットランド西部にあるアイオナ島であるとの見方が最も有力な説です。同書は、アイルランドの修道会制度の父・聖コルンバがアイオナ島に建立した修道院において、おそらくその聖人を崇敬して、象徴的写本として紀元7百年後半頃に制作が始められました。 しかし、その頃から激しさを増したヴァイキングの襲来を避けて、司祭や修道士がアイオナ島からアイルランドの本土へと移って、ケルズに逃れた時(804〜6年頃)、同修道院にこの写本がもたらされ、制作が続けられたと考えられています。 このラテン語で書かれた写本には、4つの福音書で語られるイエス・キリストの生涯が描かれ、アイルランド風イニシャル字体による壮麗さと共に、すべてのページから、その神の子の救いの業とその栄光を賛美する司祭や修道士たちの声が朗々と響き、美しく聞こえるかのようです。 そのなかでも最も輝きを放っているのは、キリストの頭文字であるXPI(ギリシャ語のChristを表す最初の2文字)が大きく広がる装飾ページです(34葉表)。その頭文字の内側も周りの空間も、ことごとく渦巻・組紐・鳥や動物の文様で埋め尽くされています。とりわけ眩暈を誘う大小の渦巻の群れは、その巨大な頭文字に輪光を与えて、福音書を読む者の心に、神の不思議な力と神秘性を体験させます。 また、各頁に描かれる文様には、渦巻・組紐文様と共に、躍動する動物たちがみられます。たとえば、魚・鳥・孔雀・猫・鼠・蛇・龍の姿には、ケルト独特の異教文化の影響も伺えます。このように、聖と俗の二つの世界が美しく調和し、豊かな芸術性がかもしだされています。 この至宝の芸術作品としての素晴らしさを、直接手にとってみて味わって頂きたいとの願いをこめて、彩色写本のファクシミリ版(縦33cm横24cm)が、説明書と共に、本大学の図書館に貴重本として所蔵されています。 この初期キリスト教芸術の傑作に、ひとりでも多くの方々が触れて、その魅力を知って頂きたいとの思いが強く感じられます。 |