| Peter Rabbitと英文学の「地」 |
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<解説> 文学部教授 平沼孝之 Peter Milward 氏によれば、イギリスの子供が耳で聞く最初の「英文学」は Mother Gooseの童謡で、最初に読む本は The Tale of Peter Rabbit だそうである。 読むといっても、子供は挿絵入りの物語を母親に読んでもらううちに暗記して、文字が読める前に挿絵で「読」んでしまうのだという。 Beatrix Potter 女史(1866-1943)の魅力は実際、物語とともに挿絵にある。後者については、画集 The Art of Beatrix Potter(London, 1955)を見るに如くはない。 9歳時の静物画から風景画、動植物の生態観察画、“Peter Rabbit Series”を始めとする各種物語の挿絵原画までが丹念に年代順に配列されていて、女史の画業の成熟過程が手に取るようにわかる。 この画集は他の大学図書館にはないようなので紹介を、との話だった。 果たして事実だろうか?にわかには信じられない。Potter 女史が終生の地と選び取ったイングランド北西部の湖畔地方(Lake District)は、Wordsworth や Coleridge らの霊感の故郷でもあったことはよく知られている。ここから必ずしも牽強付会ということでなく、大学図書館の「格」にかかわる書物が浮かび出てくる。Francis James Child の編纂になる大著、The English and Scotish Ballads 全5巻(1883-89)がそれである。 |
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Potter 女史の「物語」を分析してみると、子供ばかりか大人をも魅了する質の高い語りの秘密は結局、イギリス児童文学の伝統と結ばれつつ、その基底では、ロマン派詩人たち、またCharles Dickens や Sir Walter Scott、Thomas Hardy ら物語作家にも脈々と生きている イギリス・バッラドの伝統と確実に触れたところに息づいているのだと思わずにはいられない。 Mother Goose とともに、イギリスの子供の先ず「耳」、そして「目」から参入する「英文学」は、溯ればあの Robbin Hood 伝説を醸成した民衆的創造力にかかわる言語リズムと冒険の語りを祖先に仰ぎ、古くは Sir Philip Sidney がその“barbarousness”の抗し難い魅力と認証し、Shakespeare の「緑の世界」を始め、数々の Merrie England 賛美の源泉となり、 Addison 以降の近代の文人たちによって一貫して支持され、Thomas Percy 編纂の Reliques of Ancient English Poetry(1765)を一契機に Romantic Revival 運動の動力ともなれば、いかにも質の高いイギリス児童文学を立ち上がらせもした、イギリス風の牧歌的洗練の磁場と不即不離の関係に立つものである。 Child の ballads 集成は、民衆的想像力と語りの沃野を、言うなれば英文学の「地」の何たるかを、最も包括的に証しだててくれるものなのだ。 |