図書館では、毎月1階の展示コーナーにおいて、貴重書などの展示を行っております。

ぜひ、貴重な資料をご覧ください。

<2006年11月は、ホセ・マリア・アルゲダスです。>

【ホセ・マリア・アルゲダス JOSE MARIA ARGUEDAS】 (1911年1月18日 - 1969年12月2日)



ペルーの小説家。 インディオの世界を赤裸に描くインディヘニスモ(原住民主義)文学の大家。
ケチュア語の語法を活かした独特の文体で、インディオの精神世界を的確に捉え、独自の小説世界を築いた。
1935年に刊行した短編集『水』Aguaが処女作で、これには3つの短編が収録されており、村の横暴な権力に対する
若いインディオの反逆を描いた表題作がとりわけ評判を呼んだ。 
また長編『深い川』(1958年)では、山や川や虫など、大自然と交流するインディオのアニミズムの世界を、
少年の目を通して、喚起力に満ちた情感豊かな文章で描き出し、インディヘニスモ文学に新境地を切り開いた。
(『世界文学大事典』集英社より抜粋)

上記の短編集『水』、長編小説『深い川』は、本学文学部の杉山晃教授が翻訳を手がけています。
 【ホセ・マリア・アルゲダス年譜】



『Agua(水)』の初版本


「水」を含むアルゲダスの『短編集』


 アルゲダスの『ヤワル・フィエスタ』


アルゲダスの『ダイヤモンドと火打ち石』


                     解説 文学部教授 杉山晃
 この本の奥付には、ペルーの「リマで1935年4月13日に印刷された」とある。さほど上質な紙ではなく、製本もそれほど丈夫なものではない。ていねいに扱わないと、簡単に崩れてしまいそうだ。さいわいに本図書館が所蔵しているこの一冊の保存状態は悪くないので、その意味でも一段と貴重である。
表紙にはアンデスの村とそこに暮らす先住民インディオたちをモチーフにした素朴な絵が描かれ、それを背景にこの短編のタイトルであるAgua(水の意)が小文字で斜めに書きこまれている。
この装丁は、素朴ななりに新鮮で印象深い。絵のさらに上のほうには、著者ホセ・マリア・アルゲダス(Jose Maria Arguedas)の名前がこれも全小文字のままで印刷され、表紙の下部には、発行地と発行年(Lima, 1935)が記されている。

この小さな本は、ラテンアメリカ文学史において、かなり重要な位置を占める。とりわけ「インディヘニスモ文学」と呼ばれる先住民インディオを擁護する一連の文学作品について語るときには欠かすことのできない短編集である。
そしてさらにいえば、ラテンアメリカ有数の作家であるホセ・マリア・アルゲダス(ペルー、1911-1969)の最初の著作であるという点でも、この本はきわめて名高い。これに収められた3つの短編は、アルゲダスのその後の仕事のすべてを内包しているといっても過言ではない。並んでいる順番で列挙すると、まず表題作の「水」、それから少々長めの「小学生たち」、それにケチュア語のタイトルがついた「ワルマ・クヤイ」である。
この最後の「ワルマ・クヤイ」は「少年の恋」という意味だが、じつはこの本に収録される2年前にSigno(記号)という雑誌に掲載されており、名実ともにアルゲダスが書いた初の作品ということになる。年上のインディオの娘に恋した、まだ幼い白人の少年の物語である。それはインディオからも受け入れられず、白人にもなりきることができないアルゲダスの運命的な哀しみの吐露でもあるのだ。

アルゲダスはペルー南部の山岳部の小さな町に生まれ、数奇な幼少期を送った。継母や義兄に疎まれて遠ざけられ、孤独な少年として、農場で働く使用人のインディオたちと寝起きをともにして成長した。
おかげでインディオたちの言葉(ケチュア語)を自分の言葉とし、彼らのものの感じ方や考え方をも受け継いだ。この短編集『水』ではアルゲダスのそうした少年時代の日々が描かれている。いずれの短編においても主人公は、アルゲダス自身とおぼしき少年であり、白人の農場主と貧しいインディオたちの対決において、つねに涙しながらインディオの側に立ち、無慈悲な権力者に限りにない憤怒を抱くのである。
この姿勢をアルゲダスは生涯貫き通し、その途上で『ヤワル・フィエスタ』(1941)や『深い川』(1958)といった傑作を生み出した。


『Los rios profundos(深い川)』の初版本


『深い川』の日本語版


『Deep Rivers』(深い川)の英語版


『Les fleuves profonds』(深い川)のフランス語版

                     
                      解説 文学部教授 杉山晃
 この作品はホセ・マリア・アルゲダスが1958年に書いた二つ目の長編小説である。最初の長編『ヤワル・フィエスタ』は1941年に刊行された。両者を十数年の歳月が隔ているわけだが、その間にはアルゲダスがスランプに陥って全く書けなかった時代がはさまれている。しかしながら1950年代の後半に入ると、アルゲダスの精神状態はしだいに復調し、いよいよ旺盛な創作活動を展開するようになる。その輝かしい時代の最もみごとな達成がこの『深い川』である。
 ペルーのみならず、ラテンアメリカの最も秀れた小説のひとつに数えられている。本学の図書館が所蔵しているのは、当時アルゼンチンの老舗出版社ロサーダ社から刊行された、やや大ぶりな初版本である。

 ところで『深い川』の主人公は、アルゲダスの短編群にもしばしば登場するお馴染みの白人の少年である。かつての小学生は、ここでは十代の半ばに差しかかり、アンデスの農村部を離れ、小都市の寄宿学校に入っている。だが白人でありながらインディオの魂をもつ少年は、新しい環境になじめず、他の生徒たちから「よそ者」と呼ばれ、学校を運営する神父たちからも奇異な目で見られる。ときおり学校を抜け出しては、貧しいインディオの集落をほっつき歩き、インディオたちがたむろする料理屋へ出入りする。アンデスの歌が奏でられる場所や、ケチュア語が飛びかう空間に身を置くと、ようやく心の安定をはかることができるのだ。そういう孤独で寡黙な少年なのである。
 
 読者はけっきょく、この一風変わった少年に誘導されて、アンデスの人々の精神世界に分け入ることになる。そこでは山や川や森といった大自然が神秘的に息づき、大地と宇宙をつなぐ不思議な独楽【こま】が歌を歌いながらまわり、小さな生き物たちに暖かな眼差しが注がれる。少年は、幾世紀に渡って虐げられてきた貧しいインディオたちの側に立ち、死に神のように襲いかかってくる強大な力――軍隊と疫病――に対して自分なりの(魔術的な)戦いを繰り広げる。その豊かで哀しいイマジネーションは読む者の心を揺さぶらずにはおかない。
 
 アルゲダスはこの小説を書いてから約10年後に自死をとげた。


 
図書館内の【ホセ・マリア・アルゲダス】関連展示風景
【ホセ・マリア・アルゲダス】蔵書リスト (PDFファイル)
Jose Maria Arguedas (Wikipedia)
ペルー観光公式ホームページ


〔Close〕