| 【ベリー公の時祷書】 |
![]() 『美しき時祷書』より <三書の受胎告知> ![]() 『いとも美しき時祷書』の受胎告知 ![]() 『美しき時祷書』の受胎告知 ![]() 『いとも豪華なる時祷書』の受胎告知 |
ベリー公の時祷書 フランス国王シャルル5世の弟ベリー公ジャン(1340−1416年)は無類の愛書家・美術愛好家で、約三百点の蔵書を所有していたが、さらに自らも多くの書物(手写本)を作らせた。 とりわけ王侯貴族の間で当時もっとも愛好されていた『時祷書』(俗人のための祈祷書で、「聖母の時祷」を中心にさまざまな時祷から構成され、通常月暦が冒頭に置かれる)のもっとも優れた作品の注文主となり、パトロンとして重要な役割を果たした。 本図書館には 『いとも豪華なる時祷書 Tres Riches Heures du Duc de Berry』 (シャンティイ、コンデ美術館) 『いとも美しき時祷書 Tres Belles Heures du Duc de Berry』 (パリ、国立図書館) のファクシミリがすでに所蔵されているが、今回新たに 『美しき時祷書 Belle Heures du Duc de Berry』 (ニューヨーク、メトロポリタン美術館別館ザ・クロイスターズ) のファクシミリが加わり、ベリー公が制作させた手写本がさらに充実をみることになった。 これらの時祷書を眼前に並べて比較しながら鑑賞することが可能になったのは喜ばしいかぎりである。 『いとも美しき時祷書』は14世紀の終わりにパルマンの画家と呼ばれる逸名の画家によって挿絵が施された(この時祷書はその後、未完のままベリー公の手を離れ、いくつにも分割されて複雑な制作経路を辿った)。 一方、『いとも豪華なる時祷書』と『美しき時祷書』は15世紀に入ってからランブール兄弟(ポール、エルマン、ジャン)によって装飾された。二作品は国際ゴシック様式を代表するランブールの代表作である。 ランブール兄弟は北ネーデルランド出身で、ベリー公の弟、ブルゴーニュのフィリップ大胆公に仕えたが、1404年の同公の死後、ベリー公のもとで働くことになった。彼らは協力して写本挿絵の制作に当たり、鋭い自然観察に基づく写実的な描写を随所にちりばめた革新的な様式を生み出した。 今回購入された『美しき時祷書』は1408−9年ころに完成したと考えられ、1413年の財産目録に掲載されている。『いとも豪華なる時祷書』は1410年ころに制作が開始されたが、1416年に三兄弟、ベリー公ともに相次いで疫病で他界したために未完に終わり、最終的にジャン・コロンブが挿絵を施して完成させたのは1480年代になってからのことであった。 <受胎告知>は「聖母の時祷」の朝課の挿絵であり、必ず時祷書に描かれる重要な主題である。いわば写本全体を代表する挿絵であり、制作責任者の役を果たす主要画家によって描かれることが多かった。ランブール兄弟の二つの時祷書ではどちらにも長兄ポールの筆が入っていると思われる。 三点の受胎告知を並べてみると、非常に見事な表現でありながら、それぞれ少しづつ微妙に異なっていることに気づく。場所の設定、天使と聖母の姿勢とポーズ、純潔の象徴たる百合の花の置かれ方、父なる神と聖霊の鳩の位置などなど、いろいろなモティーフとディテイルを比較しながら、その輝くばかりの色彩−その使い方もそれぞれに特徴がある−を楽しむと興味は尽きない。 (解説:本学文学部教授 荒木成子)
|
| 〔Close〕 |