柳宗悦特集




『柳宗悦 時代と思想』の韓国語版
(韓国語題名 『柳宗悦評伝 美学的アナキスト』)




『柳宗悦 時代と思想』(中見真理著)
<装幀は柳宗理氏>




金順姫教授(左)と中見先生(右)




柳宗悦関連の展示物

 『柳宗悦 図書館蔵書リスト』(PDFファイル)

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        韓国語版『柳宗悦 時代と思想』(2005年)

                       本学文化史学科教授 中見真理

 昨年11月、拙著『柳宗悦 時代と思想』(東京大学出版会、2003年刊)の韓国語版が、韓国の暁享出版社から出版された。大変名誉なことであり心から嬉しく思っている。

 柳宗悦は、日本の植民地下におかれた朝鮮人とその文化に深い敬愛の念を示し、日本政府による文化的同化政策を批判することの出来た数少ない日本人として知られている。韓国では、戦前・戦後を通じて最も多く論じられ高く評価されてきた日本人のひとりであり、1984年(没後)には韓国政府より宝冠文化勲章を授与されている。

 拙著を翻訳してくださった金順姫氏は、日本で生れ育ち、日本の大学を卒業後、韓国人と結婚し、約30年間韓国に住んでおられる。現在は、梨花女子大大学院兼任教授をつとめながら、主に翻訳や日韓文化交流の分野でご活躍中である。柳との出会いは、中学の国語教科書で柳による光化門擁護の文章を読んだときだったという。その後、折にふれて柳への関心を深め、11年前には、岩波文庫の『柳宗悦 茶道論集』(1987年)を韓国語に訳された。

 拙著を通じて金順姫教授と出会うことが出来たのは、大変幸せなことであった。この2年間に何度もお会いし、交友を深めてきた。金教授とのご縁で、朝鮮半島の歴史や芸術への関心が一層強まり、昨年は、出版社への訪問を含め、3度も韓国を訪れることとなった。そのうちの1回は、文化史学科主催韓国研修旅行の同行教員としての訪韓であり、新たに喚起された関心を研修旅行という形で授業(科目名:文化史学特別演習)にも反映させることが可能となった。
 
 また金教授のご尽力によって、梨花女子大学と清泉女子大学が提携の調印にこぎつけたのも、喜ばしい副産物であった。お蔭で研修旅行の際には、提携校となったばかりの梨花女子大を訪問し、短時間ではあれ学生同士の交流を実現させることが出来た。さらに金教授には、12月12日に本学を訪問していただいた。左の写真はそのときのものである。
 
 韓国では、柳の著書『朝鮮とその芸術』(叢文閣1922年)の韓国語版が、これまでに7種も出版されてきた。このことは韓国における柳の朝鮮芸術論への高い評価と関心をうかがわせる。ところが近代化が進み、韓国の人々が自文化に目を向ける余裕を持ち始めると、柳への賞賛は影を潜め、彼の朝鮮観はむしろ強い批判に曝されるようになった。とくに韓国美術の研究は、柳による「朝鮮の美」の性格づけと対決し、それを乗りこえることで自民族の美意識を確立したいという強い願いを伴っていたために、柳はむしろ叩かれることの方が多くなったのである。しかし1990年代頃からは、より冷静かつ学問的に柳と向き合い、評価すべき点は評価しようとする傾向も生じてきている。ここに韓国の人々の意識の変化をみることができよう。
 けれども韓国での柳の受けとめ方のほとんどは、依然として朝鮮芸術論に集中しており、柳の活動全体を視野に入れたものではない。これに対し拙著は、柳の思想と行動を全体として捉え、その核心を明らかにしながら、国際関係思想の観点に立って柳の再評価を試みている。

 私は、韓国語版のために執筆した「前書き」において、柳の朝鮮観についても、彼の活動全体と関連づけながら、これまでとは異なった解釈を示しているので、それを読み取っていただきたいと書いた。朝鮮の美に関する柳の解釈、日本政府の文化的同化政策を批判した一方でなぜ権力と正面から対決する独立運動には消極的だったのか、光化門擁護や総督府による石窟庵修復方法批判等の活動の背後にあった民族文化の捉え方等々について、新たな解釈を示したつもりである。さらに世界の平和は世界が一色になることでは得られないとする「複合の美の平和思想」が、柳の核心にあり、それが彼の朝鮮観を規定していたとも強調した。
 このような議論が韓国ではどう受けとめられるであろうか。拙著を叩き台に、韓国の研究者たちと大いに論争し、交流を深めて行けることを今から心待ちにしている。


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