坂田 奈々絵 准教授

文化史学科(2025年度より総合文化学科)
Nanae Sakata
キリスト教と文化の関係を探求します
聖書及び「教父」と呼ばれる古代末期から中世のキリスト教思想家達の記述を基に、キリスト教からみた芸術や身体性の意義について研究しています。


教員インタビュー

Q1

学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。

​ 学生時代は聖歌隊に参加し、解説係のような役職について、歌詞の対訳や典礼の解説を作っていました。ミサやコンサートに向けて資料を集めに図書館に行ったり、辞書を引いたりと、改めて考えると今と少し近いことをしていた気がします。またコンサートで歌う多くの歌がグレゴリオ聖歌やルネサンス期のポリフォニーだったので、これを作ったり歌ったりしていた人はどんな世界を見ていたのか、という疑問を常に抱いていました。
 今に繋がるのは、学部三年生の時にゼミの始めに恩師からされた、「あなたの専門はなんですか?」という質問です。私の在籍していたコースは必修科目が多く、当時はそれをなるべく早く履修しようとがむしゃらに講義を聴いていました。そんな時にこの質問をされ固まってしまい、たどたどしく自分の興味関心について話した記憶があります。そこで改めて、大学というのは受け身に講義を聴くだけでなく、自分から探す場所でもあるのだなと自覚しました。

Q2

先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。

​ 小さい頃から宗教美術に興味があり、画集を眺めたり、キリスト教関係の本や聖書、小説を読んでいました。そこで一番疑問に感じたのが、清貧を重んじるイエスや使徒達のメッセージと、ローマ等にある絢爛豪華な教会や芸術との関係です。自分にはどちらも魅力的だったので、一体両者の関係がキリスト教の中でどう理解されているのかと気になり、神学部という進路を選びました。
 その後、博士課程で専門的な研究対象としたのはサン=ドニ修道院の院長シュジェールという12世紀の人物です。彼との出会いは全くの偶然でした。学部生の頃に図書館で森洋先生の『サン・ドニ修道院長シュジェール』という本をなんとなく手にとったのです。これは彼の領地運営や、莫大な予算をつぎこんだ教会改築の記録で、最初は内容をうまく飲み込めなかったのですが、その後だんだん自分の問題意識と向き合うのにちょうどいい人物なのではないかと思い、取り組むようになりました。

Q3

研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。

​ 私はある具体的な宗教的実践の背景にどのような理論が存在するのか、というところに強い関心を持っています。歴史の営みの中には、現在の価値観では一見すると奇妙に見えたり、また矛盾しているかのように見えるものが多くあります。ですが彼らの残した記録や思想をたどっていくと、自分の頭では思いもつかなかったような発想にしばしば出会います。それは単に好奇心を満たすだけではなく、現代や自分自身の持つ常識や固定観念の問い直しに繋がるものです。テキストを読むということは孤独な作業のように見えますが、あらゆる境界を超えたスリリングな出会いの連続といってもいいでしょう。この思想家はなにを語っているのか、このテキストには何が書かれているのか、そしてどのような文脈にあるのかということを丁寧に掘り起こしていくことは困難なことですが、こうした出会いを糧に、そして次を目指して日々精進しています。

Q4

学生へのメッセージをお願いいたします。

​ 大学は講義を聞き理解する場であると同時に、それをもとに自ら問いを立て、自由に探求する場所です。「探求」や「問い」という言葉を出すと堅苦しいものに聞こえるかもしれませんが、言い換えるならば、なるべく広い世界に思いを馳せ、自分なりの「なぜ」「なに」を持つことだと思います。だから肩の力を抜いて、講義の合間にちょっと図書館をブラブラしたり、人との会話やニュースで聞く出来事等、いろいろなものに目を凝らしたり耳をすませたりしてみてください。私たちが何気なく使う言葉や自明と思っている概念にも、実は複雑で興味深い背景が存在しています。ぜひ四年間の学生生活の間で、なにか掘り下げて知ってみたい!ということを一つでも見つけ、それと真摯に向き合ってみてください。知の世界は無限で無駄な寄り道などありません。その問いがどんなに小さく見えたとしても、そこから楽しい冒険が始まるのではないかと、私は考えています。

教員紹介


氏名
坂田 奈々絵
フリガナ
サカタ ナナエ
職種
准教授
所属
文化史学科(2025年度より総合文化学科)
取得学位
Th.D. , S.T.D.
学位取得大学
上智大学
最終学歴
上智大学大学院神学研究科組織神学専攻博士課程修了
専門分野
キリスト教思想史
研究テーマ
・12世紀の神学思想と修道院文化の関係
・ギリシャ教父思想のラテン世界における受容と変化
・中世キリスト教における涙の神学的解釈
所属学会(役職)
及び受賞歴
宗教学会
中世哲学会
西洋中世学会
教父研究会(庶務幹事)
日本カトリック神学会
主要業績
・「サン=ドニ大修道院長シュジェールにおける anagogicus mos ─『新プラトン主義』と典礼的文脈─」『中世思想研究』55号 2013年
・新神学者シメオン「実践と神学についての断章」(翻訳)『フィロカリア』第六巻 新世社 2013年
・「シュジェールの光-擬ディオニュシオスとの類似と断絶について」『パトリスティカ』17号 2014年
・「サン=ドニのシュジェにおける祭儀と装飾の連関について ──クレルヴォーのベルナールとの対比を中心に──」『美学』66号 2015年
・「涙を流す修道士たち」『善美なる神への愛の諸相』教友社 2016年