長野 太郎 教授

スペイン語スペイン文学科(2025年度より地球市民学科)
長野太郎教授
ラテンアメリカの文化をみんなで討論します
世界の中でラテンアメリカはどのような地域なのかに関心があります。近年はダンスを中心に、ラテンアメリカのポピュラー文化とアイデンティティの問題を研究しています。

教員インタビュー

Q1

学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。

 大学は新鮮な場所でした。雑多な人であふれかえるキャンパス、サークルや飲み会といった大学生の文化、そして男子校から共学の世界に移ったこと、どれも刺激的な出来事でした。さらに、半年ほど在籍した体育会の少林寺拳法部、2度の学園祭で真剣に取り組んだ演劇、南米の民俗音楽やダンスと出会ったサークル活動など、いろいろなことに首をつっこみました。
 そんなこんなで、勉学がおろそかになり、大学でいちばんやりたかった文化人類学の勉強を断念せざるをえなくなりました。とりあえず外国語が得意だったので仏文科に進みましたが、何だかすっきりしませんでした。もやもやした感じを吹っ切るため、以前からの憧れだった中南米への旅行を計画し、4年生になる前に休学して、約11ヶ月間にわたる放浪の旅に出ました。

Q2

先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。

 いつの頃からか、外国語(とくにスペイン語)やラテンアメリカの音楽への関心が芽生え、旅に対する憧れを持っていました。
 今と違って海外の情報も少ない時代に、強く異国を意識したきっかけは、当時流行った短波ラジオや、独特の匂いを放つ洋書の売り場でした。ラテンアメリカ音楽は、FMラジオの番組やレンタル・レコード(LP)屋を通じて、手当たり次第に聴きました。ことばの響きやリズム、楽器の音色が独特で、本や雑誌から知識を吸収しながら、限られた音源を繰り返し聴きました。
 大学時代に経験した最初の中南米旅行では、メキシコ、ペルー、ボリビア、アルゼンチンを中心にめぐりました。でもその後、旅の経験から得たものをうまく説明してくれる書物などと出会うことはできませんでした。こういったことから自ら手探りで探求する道に入っていったのだと思います。

Q3

研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。

 大学院に進んでラテンアメリカを研究すると決めましたが、やりたいことが見えてきたのはだいぶあとのことです。
 仏文科の学部生時代から、自分のやりたいのは文学作品の研究ではなく、社会について考えることかなと漠然と感じていました。それで、ラテンアメリカの政治や経済を学ぼうと考えたこともあります。しかし、早々に自分には向かないと悟り、次に目を向けたのが歴史でした。その歴史学もまた、基礎から学び直すには遅すぎると感じました。
 そうして行き着いたのが、歴史的観点からポピュラー文化を研究するアプローチです。おそるおそる、関心の強かった音楽やダンスのテーマについて考え始め、最近になってようやく、自分のやるべきことがこれに違いないと思えるようになりました。だから、自分の研究テーマの魅力や面白さを他人に説明できるほどではないのですが、やっていて面白いと思っています。
長野太郎教授

Q4

学生へのメッセージをお願いいたします。

 若いときは、他人のしいたレールには乗りたくない、自分らしく生きたい、自分のやりたいことをしたい、などと思い悩みます。私は、「自分の好きなことを仕事にしていていいね」と言われることがあります。でも、やりたいことがはっきりと見えず、ずいぶんともがいてきた経緯があるので、素直に「そうだね」とは答えられません。
 ただ、昔の自分と同じように悩んだり、壁にぶつかったりする学生たちのそばにいる教員の仕事は好きです。人生も世の中も答えのないことだらけなので、要領よくとか、かっこうよくなんて思わない方がいいと思います。愚直に考え込んだり、呆然と立ち尽くしたりすることです。いずれ道は開けます。
 アルゼンチン留学中にオンボロ冷蔵庫が壊れて、扉が外れてしまったときのことが忘れられません。ケチャップやマヨネーズ、卵、ジュースが地面にぶちまけられ、呆然と立ち尽くしました。でもその後、ジャムのビンを扉の支えにして2年間持ちこたえました。

教員紹介


氏名
長野 太郎
フリガナ
ナガノ タロウ
職種
教授
所属
スペイン語スペイン文学科(2025年度より地球市民学科)
取得学位
学術修士
学位取得大学
東京大学大学院
最終学歴
東京大学大学院博士課程(総合文化研究科 地域研究専攻)単位取得満期退学
専門分野
ラテンアメリカ研究、ポピュラー文化研究
研究テーマ
ラテンアメリカ地域におけるポピュラーダンスを中心とした、音楽/舞踊研究。おもに、アルゼンチンにおける民俗舞踊実践の史的展開を、文化的ナショナリズムとの関連から研究してきた。現在ではそれに加えて、ラテンアメリカにおける様々なポピュラーダンス実践のあり方、ラテンアメリカをめぐる表象の問題について、現地調査を含めながら研究することをこころみている。また、日本からラテンアメリカに向けられてきたまなざしの歴史にも関心をもっている。
所属学会(役職)
及び受賞歴
日本ラテンアメリカ学会
日本イスパニア学会
日本ポピュラー音楽学会
Latin American Studies Association (LASA)
Dance Studies Association (DSA)
主要業績
・“El nacionalismo cultural en torno a la práctica del baile: un estudio crítico sobre el discurso folklórico de Carlos Vega” 『ラテンアメリカ研究年報』No.24、1-24頁 2004年
・「国民教育とフォークロア―アルゼンチンにおける全国民俗調査(1921)をめぐって」『清泉女子大学紀要』第53号、101-120頁 2005年
・2006b“Urbanización de la práctica de danzas folklóricas. Revista Danzas Nativas y la negociación del espacio sociocultural”, Revista de Investigaciones folclóricas, Núm.21 (Buenos Aires, Argentina, diciembre de 2006), pp.39-46.
・「アルゼンチン:『移民国家』の文化的アイデンティティ」『新世界地理第14巻ラテンアメリカ』(朝倉書店、共著)、408-416頁 2007年7月
・「20世紀アメリカ合衆国におけるペアダンス―ピューリタン的禁欲主義がダンスフロアに与えた影響について」『清泉女子大学人文科学研究所紀要』第35号、45-65頁 2014年3月
・「『ルンベーラ』の身体―メキシコ映画におけるラテンダンスの表象―」『清泉女子大学紀要』第62号、75-92頁 2014年12月
・“Estudio preliminar para reconsiderar la mirada japonesa hacia América Latina: libros de viaje en japonés en la posguerra Showa, 1952-1989”, 『清泉女子大学紀要』第65号、135-156頁 2018年1月
社会活動、
文化活動等
・NHK衛星放送スペイン語通訳(1992年から現在まで)
・音楽雑誌『ラティーナ』への執筆:2009年5月号「「アルゼンチン新潮流音楽―ルーツ系音楽の最近の動向をめぐって」、2007年2月号 「独裁者の死とヌエバ・カンシオンのゆくえ」、ほか。
・アルゼンチン民俗舞踊の舞台パフォーマンス:2009年7月「アルゼンチン・フィエスタ」(東京/お台場アクアシティ)、2007年11月「La Noche Argentina」(千葉)、2007年5月 「ラテンアメリカが紡ぐ糸と音:コンサート「大地の輝き」」(宮城/仙台市福祉プラザふれあいホール、「アルゼンチンフェスティバル ARGENTINA CANTA Y BAILA -- アルゼンチンの歌と踊り --」(東京/目黒区民センターホール) 、ほか。