大野 俊 教授
地球市民学科

グローバルな視野から現代社会を見つめよう
この30年余り、アジア太平洋・欧米各国の多分野で取材や調査に従事。近年は、人や文化の越境など、グローバリゼーションに関わるテーマを中心に、研究活動にあたっています。【高校生向け誌上講義】
越境する人と文化 ~グローバリゼーションの視点と体験~
教員インタビュー
Q1
学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。
学部生時代には理学部に属し、動物生態学を中心に生物学を勉強しました。卒業論文は、アカネズミとヒメネズミの棲み分けをテーマとし、同じゼミの同期生2人とともに、ほぼ半年間、山中のフィールドに通いつめ、現地調査に没頭しました。課外活動では、探検部の部員として沖縄・八重山諸島の小島で自給自足的な合宿をしたり、地域の社会問題について住民から聴き取り調査をするなど、フィールドワークに励みました。探検熱が高じて、1年間休学してポナペ、パラオなどのミクロネシアの各島で住民宅にいそうろうしながら、多面的な調査にあたりました。こうした国内外でのフィールドワークの経験が、入社試験を受けた新聞社に評価されて記者として採用されました。その後、2回の海外留学を経て、大学教員に転職しましたが、フィールドワーク(取材を含む)中心の生活は今日まで40年余り続いています。
Q2
先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。
新聞記者時代の1985年、戦後40年記念の連載企画を担当することになりました。その作業の過程で、日本軍のフィリピン占領期に軍に協力し、戦後はフィリピンに残留した多数の日系二世の存在を知りました。翌年、新聞社を1年間休職し、英語で勉強できるフィリピンの大学院に留学しました。そこで修士論文の研究テーマに選んだのが、この国の各地で暮らす日系人です。数十人の日系人にインタビューし、日本軍の非人道的行為の「代償」を肩代わりすることになった日系二世の悲劇を知りました。戦争で日本人移民の父親ら家族を失ったうえ、戦後は「民族の裏切り者」として迫害の対象になりました。日本の政府や市民にとっても大きな問題だと思い、新聞社に復職後、連載記事執筆などを通じて彼らの抱える諸問題を社会に訴えました。後年、新聞社を早期退職し、留学先のオーストラリアの大学院でこのテーマをグローバルな視点を加味して論じる博士論文を執筆しました。それを加筆修正したTransforming Nikkeijin Identity and Citizenship: Untold Life Histories of Japanese Migrants and Their Descendants in the Philippines, 1903-2013というタイトルの本を、最近、本学の海外協定校であるアテネオ・デ・マニラ大学の出版局より著しました。
Q3
研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。
私の主な研究テーマはいま、上記以外、二つあります。日本・中国・韓国など東アジアにおけるメディア文化の越境と相互イメージ形成、もう一つは看護・介護労働者ら人の国際移動です。三つ目のテーマでは、送出国のフィリピン、インドネシア、ベトナム、受入国の日本、シンガポール、オーストラリア、アメリカ、カナダ、英国、ドイツ、ノルウェーなどで現地調査にあたりました。私がオーストラリア国立大学で取得したPh.D(博士)の学位は「東アジア・東南アジア研究」という地域研究でしたが、その後の研究は地域がアジアから拡がり、欧米豪などを含めた「グローバル・スタディーズ」になりました。多様な面でグローバル化が進行するいま、人や文化の越境はアジア・欧州などといった地域に限定することはありません。それを追いかけて訪問する各国・地域で目にした新たな事象、被面談者の思わぬ話が既成概念を覆してくれることがしばしばです。同じ経験は日本国内でもあります。それが、フィールドワークの醍醐味だと思います。

Q4
学生へのメッセージをお願いいたします。
私の場合、年齢によってやりたいことが変わってきました。高校時代は動物作家、大学を卒業するころには新聞記者、40代になってからはアジア研究者です。妻子がいるのに40代後半で定職を捨ててオーストラリアの大学院に留学したのは、今でも「大冒険」だったと思います。幸いなことに、家族の理解と、多国籍の指導教員陣の手厚い指導を得ることができて、約350ページの英語論文を書きあげることができました。還暦を過ぎて改めて思うのは、それが収入につながるか否かに関わらず、自分がやりたいと思うことを追究するのが一番の幸せだということです。学生時代は自分のやりたいことができ、また未知の分野にも挑戦ができる貴重な時期です。本学の学生たちが将来のライフワークの土台になるような学びや様々な体験ができるよう、学内外で惜しみない応援をしていきたいと思っています。
教員紹介
氏名 | 大野 俊 |
フリガナ | オオノ シュン |
職種 | 教授 |
所属 | 地球市民学科、大学院人文科学研究科 |
取得学位 | Ph.D(東アジア・東南アジア研究) |
学位取得大学 | オーストラリア国立大学(Ph.D)、国立フィリピン大学(MA)、九州大学(理学学士) |
専門分野 | 東アジア・東南アジア地域研究(国際社会学、歴史学) |
研究テーマ | 1. 東南アジアの看護・介護労働者の国際移動をはじめとするケアの越境とグローバル化 2. 世界の国際移民と在日外国人の動向 3. フィリピン、インドネシア、中国などアジアの日系人のアイデンティティと市民権 4. メディア文化の越境をはじめとする日本・中国・韓国連携の方策 |
所属学会(役職) 及び受賞歴 | アジア太平洋アクティブ・エイジング・コンソーシアム(ACAP) 日本移民学会 韓日未来フォーラム 東京フィリピン研究会 日本保健医療社会学会 【受賞】2016 UPAA Distinguished Alumnus Award in Migration Studies(国立フィリピン大学同窓会[UPAA]) 2016年6月 |
主要業績 | 【著書】 ・『ハポン―フィリピン日系人の長い戦後』第三書館 1991年 ・『観光コースでないフィリピン―歴史と現在・日本との関係史』(3刷) 高文研 2000年 ・『観光コースでないグアム・サイパン』(2刷)高文研 2006年 ・『日本帝国をめぐる人口移動の国際社会学』(共著)不二出版 2008年 ・International Migration of Southeast Asian Nurses and Care Workers to Japan under Economic Partnership Agreements (ed.), Center for Southeast Asian Studies, Kyoto University, 2012. ・『メディア文化と相互イメージ形成―日中韓の新たな課題 [新装版] 』 (編著) 九州大学出版会 2014年 ・『外国人看護師-EPAに基づく受入れは何をもたらしたのか』(共著)東京大学出版会 2021年 ・Transforming Nikkeijin Identity and Citizenship:Untold Life Histories of Japanese Migrants and Their Descendants in the Philippines, 1903-2013, Ateneo de Manila University Press, 2015(2021年にe-bookでも刊行) 【論文】 ・「カナダにおける移民看護師の受入れ施策―マニトバ州の官民の取り組みを中心に」(『こころと文化』第14巻第2号) 2015年9月 ・「東ティモール人の対日認識―日本の軍事占領と官民の支援の影響を中心に」(『アジア太平洋研究センター年報』第14号) 2017年3月 ・「中国人の対日認識ー尖閣諸島国有化から5年後の実情を中国都市部で探る」(『アジア太平洋研究センター年報』第15号) 2018年3月 ・「フィリピン人の対日認識の変化とその要因―大学生対象の配布票調査も踏まえて」(『清泉女子大学紀要』第67号)2020年1月 ・「アジアの中の「反日」と「親日」再考 ― 韓国、中国、インドネシア、フィリピン、東ティモールでのフィールドワークを踏まえて」(『清泉女子大学紀要』第68号)2021年1月 ・「多様化が進んだ「介護移民」-パンデミック下での業務と意識に焦点をあてて」(『アジア太平洋研究センター年報』第18号)2021年3月 ・「高齢社会・中国における介護人材育成の課題―北京市周辺での調査を踏まえて」(『清泉女子大学紀要』第69号)2022年1月 【研究ノート】 ・「日本定住化が進む『介護移民』-経済連携協定(EPA)での受入れ開始から10年目の現状と課題」(『移民研究年報』第25号)、2019年6月 |
社会活動、 文化活動等 | ・ミンダナオ国際大学客員教授 ・福岡市多文化共生懇話会座長(2009年度) ・中国社会科学院日本研究所客員研究員(2012年度まで) ・京都大学東南アジア地域研究研究所の国際共同研究拠点プロジェクト「新型コロナウイルス感染拡大に伴うケアの意識・実践の変容―日本定住外国人看護・介護スタッフに焦点をあてて」研究代表(2020年度~2021年度 ) ・ハワイ大学公衆衛生研究所(Office of Public Health Studies, University of Hawaii at Manoa)外部教授(2020年9月~2021年6月) ・東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)出資の共同研究プロジェクト「パンデミック下における日本定住ケアワーカー移民のレジリエンス」チーム代表(2021年7月~) |