清泉女子大学

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平成31年度 入学式学長式辞

 新入生の皆さん、御入学、おめでとうございます。新入生の保護者、御家族の皆様、お嬢様の御入学、誠におめでとうございます。

 桜咲く、今日の佳(よ)き日に、清泉女子大学に入学なさるのは、大学院が修士課程の言語文化専攻2名、思想文化専攻4名の計6名、文学部の1年生は、日本語日本文学科103名、英語英文学科122名、スペイン語スペイン文学科59名、文化史学科123名、地球市民学科62名の計469名、3年次への編入生・学士入学者が、日本語日本文学科1名、英語英文学科1名、スペイン語スペイン文学科1名、地球市民学科2名で合計5名、学部は合計474名、大学院と合わせて全部で480名の方達です。

 皆さんを新たに清泉女子大学の学生としてお迎えすることを、教職員一同、心から喜んでおります。歓迎致します。

 清泉女子大学は、スペインから来日した、聖心侍女修道会のシスター方により設立され、創立69年目を迎えます。キリスト教ヒューマニズムの下、「一人ひとりを大事に」することを建学の理念としています。小人数教育の形で、社会で自立した女性として、主体的に考えて活躍できる女性、自分のことだけでなく周囲のことも考える奉仕の精神を持った女性の育成を目指し、全教職員が熱意と愛情をもって教育に当たっています。

 清泉女子大学は、キリスト教ヒューマニズムの下、「まことの知、まことの愛(VERITAS et CARITAS)」の追究をモットーとしています。「まことの愛」は、先程申したように自分のことだけでなく他者のことを思いやる奉仕の精神や、グローバル化の進む社会の中で、他文化、他民族の多様性を理解し、尊重し合い、共生する精神のことです。「まことの知」とは、教養と知性を身につけ、自己を知ることです。自国の文化を知らなければ、他国の文化を理解することはできません。また、冷静に状況を見極めて判断できる理性を備え、「自己」というものをしっかりと確立していなければ、真に他者に優しくはなれません。自分のない人が他人に合わせようとすると、往々にしてただ流されてしまいます。知性ある「自己」というものを確立できている人が、真に他者に優しくなれるのです。清泉女子大学は、建学以来、知性と優しさを備えた女性の育成を教育目的として掲げています。

 さて、新入生の皆さんに、私から是非お願いしたいことがあります。それは、「出会い」を大切に考えて、出会った多くのものと、真剣に向き合って欲しい、ということです。多くのものと出会えるように、是非意識して、積極的、行動的な学生生活を送って下さい。大学時代は人生で最も自由で撥剌(はつらつ)とした時期ですが、ただ待っていては、貴重な出会いを持てぬまま、あっという間に学生時代が過ぎてしまいます。「出会い」と言っても、色々あります。大学での学問との出会い、自分の生き方に大きな影響を与える「本」や「恩師」との出会い、一生の宝となる「友」との出会い、そして、今はまだ皆さん自身が気付いていないような「自分」自身との出会いなどです。

 私事に及んで恐縮ながら、私は幼い頃に自宅の本棚の日本文学の全集に触れました。母が若い時に買った古い全集で旧字体が用いられており、当時の私には難しくて読めませんでしたけれども、本に触れていると落ち着き、「文系の研究者になりたい。できるだけ多くの本を読みたい」という希望を持つようになりました。大学に入って、日本文学のうち研究したい分野を見つけようと、クラスメートと読書会を作って何作も古典を読むうち、上田秋成の『雨月物語』に出会いました。江戸時代後期の読本(よみほん)で、日本の怪異小説の白眉とされています。単に読者を怖がらせる怪談ではなく、怪異を通じて、人間の悲しい「業(ごう)」が描かれている傑作です。文章が美しい上に、何よりストーリーが面白く、夜を徹して一気に読み通した記憶があります。日本の古典が好きだったとはいえ、筋が面白くて一気に読み通したことなど初めてで、「今から二百何十年も前に、なぜこんなに面白いものが書けたのだろう」と、素朴な疑問を持ったことが、江戸時代の小説を専門に研究するようになったきっかけです。大学院生時代には、一生の師と言える恩師と出会い、研究に向かう姿勢や教授法の薫陶を受け、生き方を学び、加えて本学の教員として就職する際の御縁も繫(つな)いで頂きました。今の私があるのも、偏(ひとえ)に、今は亡きその先生の御蔭と心から敬愛し感謝しています。臆面もなく己のことをしゃべってしまいましたが、壇上におられる先生方は全員、研究対象や師との出会いと選択・決断を経て、研究者の道を歩んでいらっしゃいました。研究者に限らず、皆さんの保護者に当たられる御家族も、何かに出会い、選択・決断を経て、現在それぞれのお立場で日々の勤めを果たしておいでです。
 皆さんも本学との出会いと決断があって、今ここにおられる訳ですけれども、大学に入ると、今迄より大きく世界が広がります。色々な面で、学内・学外の両方で、自分なりの沢山の出会いを持てる、それが、皆さんの目の前に広がる大学生活です。

 「自分との出会い」ということについても、お話しします。皆さんの中には、「自分なんてどうせ大したことない」と、変に自分を見切ってしまっている方がおられるやもしれません。しかし、はっきり言って、それは間違いです。筑波大名誉教授で遺伝子工学の権威である村上和雄氏は御著書の中で、こう書いておられます。人間の体は60兆もの細胞から成り、細胞ごとの核の中の遺伝子DNAには、30億もの遺伝子情報が詰まっている。ところが、僅か数パーセントの機能しか働いておらず、他の部分はオフになり働いていない。環境や物の見方・考え方によって、遺伝子情報の機能のオンとオフは切り替わる。よって、決して自分はダメだと諦めたりせず、全て前向きに考えて、自分の可能性を信じ、「できる」と思ってやってみることが何より大事だとお書きです。全く同感です。出会いを活かすには、自分を信じ、且つ出会った対象と真剣に向き合うことが重要です。

 清泉女子大学は、文学部の単科大学であり、女子大です。文学部での学びのうち、語学は外国人とのコミュニケーションスキルとなりますが、文学や歴史、哲学、美術などは、実学でなく、勉強しても社会に出てから役に立たないなどと思ってはいませんか。それは短絡的な、近視眼的な見方です。文学は、言語表現を主に扱います。且つ、いずれも人間とは何かという探求に繫(つな)がるものです。人間は誰しも、言語を通じて思考し、言語を通じて他者との意思の疎通を図ります。また、社会に出てどのような職業に就くにしても、又どのような生活を送るにしても、多くの人間と関わり、交渉したり協力したりすることが不可欠です。人間につき探究する文学の学びは、一生涯の節目節目で必ず活きてきます。

 加えて、本学は小人数教育の中で、演習、ゼミナール形式の授業を重視しています。演習形式の授業は、教員が一方的に講義するのではなく、学生がそれぞれ事前に調べて考察したことを、資料を作って発表し、それを聞いた他の受講生や教員からの質問に答える質疑応答を行います。卒業論文を書く場合には、自らテーマを考え、指導教員の助言・指導を受けつつも、自分で資料・文献を集めて、分析と考察を加え、未解決の問題について答えを導いていきます。これは、社会での、あらゆる職業・活動とも通じる事柄です。

 更に、少子高齢化が急速に進む日本社会では、今後益々女性の社会的な活躍の機会が広がって行くに違いありません。にも拘(かかわ)らず、今の日本は、残念ながら男女機会均等はなお道半ばです。他の大学で起きた入試における不当な女子差別などの報道に接すると、同じ大学人として、憤りを感じると共に情けない思いです。そのような日本では、女子大で学ぶ意義は未だ大きいと言えます。授業でもサークルでも、男性に頼ったり遠慮したりすることなく、女子学生自身がリーダーシップを取り、重要な役割を各人が主体的に果たします。その経験が、皆さんを大いに成長させます。

 本学の就職率が最新のデータで97%以上と非常に高いのは、大学のブランドイメージや就職課のきめ細やかな就職支援だけでなく、本学が本質的なことを誠実に教育し得ている成果だと自負しています。就職はゴール・目的ではありません。どのような道に進むにしろ、自己実現と社会貢献を果たすことによって、一人ひとりが充実した人生を送ることが大事です。清泉女子大学では、本質的なものと向き合い、学ぶことができます。どうか、自らの持つ可能性を信じ、卒業時・修了時にどのような自分になりたいかという目的意識をしっかり持って、学生生活を送って下さい。

 最後に付言すると、いきなり高い理想を掲げる必要はありません。『次郎物語』の作者として有名な小説家、下村湖人は、『青年の思索のために』という随筆の中で、次のような体験を述べています。運動が苦手で体力に自信のなかった筆者が初めて10キロの長距離走の大会に出た時のこと。初めは前の方を走っていたものの、半分も行かないうちに疲れて足が重くなり、次々に抜かれて行きます。へたばって、ゴールできるか不安でリタイアしたくなった時、「取り敢(あ)えず2,3百メーター先のあの立木まで頑張ろう」と思って続けてみると、立木まで走りきれた。次にはあの電柱、あの建物と目先の目標物に向かい走った結果、完走でき、タイムも目標以上でした。この体験から、筆者は、「一生の理想は高く、夢は大きく持つべき。しかし、日々実践すべきは、目の前の小さな目標に向かって努めることだ」と学んだ旨書いています。皆さんも、人生の大きな夢を見つけるため、まずは目の前の小刻みな目標に向け、真剣に向き合って下さい。

 今から広がる学生生活において、多くと出会い、多くと真剣に向き合うことを、皆さんにお願いしました。そうしたことで、どんどん自分の世界が広がります。卒業時・修了時に皆さんが、どのように成長した自分と出会えるか――我々教職員は大いに期待し、且つ全力でサポートして参ります。

 改めまして、本日は御入学、おめでとうございます。

 
平成31年4月2日   
 学長 佐伯 孝弘   

入学式

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