石野 一晴 准教授

文化史学科(2025年度より総合文化学科)
石野先生
民衆の巡礼から中国を読み解きます
中国史上における民衆の巡礼を研究しています。巡礼という宗教的行為を通じて「中国とは何か」を考え続けています。


教員インタビュー

Q1

学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。

 当時の私の母校は非常におおらかな学風で、学生の自由を尊重してくれました。授業は心躍るものばかりでした。狭かった自分の視野を広げてくれる講義や演習が多く、ノートを取っては分からないところを図書館で調べていました。単位の心配もあまり必要なかったので、分野を問わず学部の垣根を越えて色んな先生の授業に顔を出していましたね。もともとスポーツが大好きなのですが、サークル活動はほとんどせず、そのかわり授業で仲良くなった友達と学生食堂でいつも遅くまで話をしていました。
 こういうことを言うと、何だか勉強大好きの優等生みたいですが、学生の頃の最大の思い出は、長期休暇のたびに世界中を旅して回ったことです。10代最後の夏に、地元の友人と自転車旅行に出ました。千葉から山形まで400㎞あまり。そんな遠くまで自転車で行けるのか?と思ったのですが、これが行けてしまうんですね。何度もパンクしながらも3日でたどり着きました。ああ、人間やろうと思えばできるんだなと気付いた私は、休みごとにどんどん遠くへ行くようになりました。韓国、中国、東欧、中央アジア、中東………。気付けば行くのは日本人が行かないようなところばかり。厳戒下のベオグラードでは闇市を覗き、アルメニアでは日本人に会うのは初めて!という小学生にせがまれて記念撮影、イエメンの子供たちの笑顔も忘れられませんね。あの頃は、節約して週末にアルバイトを頑張れば貧乏旅行の旅費くらいなら手に入りました。
 いま思えば長期休暇の際に読むべき重厚な本があったよなぁ、とも思うのですが、私の世界認識の基礎を形作っているのはこの経験なので後悔はありません。

Q2

先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。

 子供の頃から歴史が好きで、中学生のときに中国やシルクロードを題材にした歴史小説を読むようになると、東洋史に興味を覚えるようになりました。大学にも東洋史を学ぶ気満々で入ったのですが、世の中には実に興味深い学問分野が山のようにあることを知ってしまうと、卒論のテーマを考えるにあたって色々悩み、王道のテーマである政治史や社会経済史よりも、もう少し過去の民衆世界に迫れるようなテーマはないものかと考えるようになりました。そんな3年生の終わりにチベットを旅したのですが、たまたま旧正月の巡礼の時期に当たり、中心都市であるラサは五体投地する人々で溢れかえっていました。彼らを巡礼に突き動かすものは何なのか、非常に強い好奇心が湧いたのですが、卒業論文を書くまでにチベット語を習得する自信はありませんでした。そこで、先行研究を調べてみると、巡礼に関する中国史の研究は意外と少なく、先生の勧めもあり、なら自分でやってみようと思い、今に至っています。

Q3

研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。

 日本や欧米とは違って、中国では巡礼についてのまとまった記録はありません。その分、まだまだ未開拓の分野で、時間を掛けて調べていくと意外な発見があります。例えば、中国留学中にフィールドワークをして、あるお寺さんの壁に残されていた巡礼者のリストを、ひとつひとつ文字を復元して一覧にすると、何とこれまで漢文で読んでいた話とは全く違う事実が浮かび上がってきました。どうやら、そこに名前を書き残していた巡礼者は秘密結社のメンバーが多く含まれていたようで、そういった事実はお役所にとって都合が悪いので、報告書ではそれを隠していたみたいなんですよね。昔の中国では娘娘(にゃんにゃん)と呼ばれる女神様の信仰が盛んで、そのお寺でも有名な娘娘さまをお祀りしていたのですが、当時の人たちはお金をかき集めて巡礼団を組織して、娘娘さまに祈りを捧げていたようです。私はいま色んな種類の史料を濫読していて、少々効率の悪い研究ではあるのですが、あ、ひょっとしてこれに気付いたのは自分が世界で初めかも、と思える瞬間がたまにあるのが醍醐味です。

Q4

学生へのメッセージをお願いいたします。

4年間を使って大学の内外で色んな経験をしてください。
良い友達を作ってください。一生の財産になります。
あと、本をたくさん読んでおくと、きっといいことがあります。大学の図書館には皆さんのために選び抜かれた良書が配架されていますから、ぜひぜひ使い倒してください。

教員紹介


氏名
石野 一晴
フリガナ
イシノ カズハル
職種
准教授
所属
文化史学科(2025年度より総合文化学科)
取得学位
博士(文学)
学位取得大学
京都大学
最終学歴
京都大学大学院文学研究科東洋史学専修博士課程
専門分野
東洋史
研究テーマ
中国史上における巡礼と社会
所属学会(役職)
及び受賞歴
東洋史研究会
東方学会
日本道教学会
歴史学研究会
第9回Waseda e-Teaching Award Good Practice賞
主要業績
・「明代万暦年間における普陀山の復興―中国巡礼史研究序説―」『東洋史研究』第64巻1号、2005年6月
・(翻訳)余新忠「清末における「衛生」概念の展開」『東洋史研究』第64巻3号、2005年12月
・「補陀落山の巡礼路―浙江省普陀山における17世紀前半の功徳碑をめぐって―」『東アジア文化交渉研究』第3号、2010年3月
・「泰山娘娘の登場―碧霞元君信仰の源流と明代における展開―」『史林』第93巻4号、2010年7月
・「17世紀における泰山巡礼と香社・香会―山東省霊巌寺大雄宝殿の碑刻を中心に」『東方学報』第86冊、2011年8月
・「楊貴妃観音の源流」佐藤文子・原田正俊・堀裕編『仏教がつなぐアジア―王権・信仰・美術―』勉誠出版、2014年6月
・「清末の「巡礼ガイドブック」『参学知津』から見た僧侶の巡礼」『洞天福地研究』第8号、2018年9月
・(共著)「第二回日仏中国宗教研究者会議参加報告」『東方宗教』第131巻、2018年11月
社会活動、文化活動等
・「観音様に会える島-明代における普陀山復興と巡礼-」神奈川県立金沢文庫連続講座「唐物と東アジアの海域交流」2017年11月