佐々木 守俊 教授

文化史学科(2025年度より総合文化学科)
Moritoshi Sasaki
平安~鎌倉時代の仏教美術を研究します
おもに平安~鎌倉時代の仏像や版画を対象とし、それらがつくられた事情や中国からの影響を研究しています。


教員インタビュー

Q1

学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。

 とにかく不まじめな学生で、勉強も部活も中途半端、読書もほとんどしませんでした。いちばん時間を割いたのは麻雀でしょう。ただ、当時の友人といろいろ語り合ったのはよい体験でしたが。そんなわけで大学院に進学できるわけもなかったのですが、大学4年生のときはバブル期だったので、すんなり企業に就職できました。しかし、心の片隅に残っていた「美術史をちゃんと学びたい」という未練に勝てず、会社をやめて大学院に入ることになります。今になって振り返ると、大学4年間のうちにできるだけ本を読み、たくさん映画を見て、さまざまな展覧会に通い、本当にやりたいことをしっかり見据えればよかったです。

Q2

先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。

 修士1年の頃は浮世絵を専攻しようと思っていたのですが、きちんとテーマを決めて集中的に研究するに至りませんでした。その一方で、秋に大学の見学旅行があり、神護寺の五大虚空蔵菩薩坐像などかずかずの仏像を見る機会がありました。旅行のあとで指導教員の先生が「君は彫刻史を専攻するのがいいんじゃないか?」と勧めてくださり、それをきっかけに専攻を変え、学外の彫刻史の先生に入門しました。神護寺の五大虚空蔵菩薩坐像は修士論文のテーマになったので、あのときのあの出会いがなければ、違う人生を歩んでいたかもしれません。学芸員として就職した美術館ではおもに浮世絵を担当していたのですが、印仏・摺仏と呼ばれる仏教版画も収蔵している館だったので、日々それらに触れているうちに、仏像と印仏・摺仏の関係が自分にとって重要な研究テーマになりました。それとともに、気がつけば浮世絵もまた好きになっていて、雑食性の研究者になっていました。

Q3

研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。

 私が最近もっとも面白く感じているのは、仏教版画(印仏・摺仏)や小仏像などを仏像の内部空間に納入する信仰がなぜ生まれ、どのように展開したかをあとづけることです。仏像は外から見ていてもじゅうぶん美しく魅力的ですが、像の内部にもう一つの世界があり、そこに過去の人々が生き、ほとけに祈りを捧げた記憶が残されているのです。それはまるでタイムカプセルにしまわれた宝物のようです。平安・鎌倉時代というと大昔のようですが、その時代の人々の考え方・感じ方を、像内の納入品を通じて疑似体験し、共有できることが、この研究の最大の醍醐味です。こうした作品はたくさん知られているのですが、なぜ納入がおこなわれたか、そこにどんな信仰が籠められていたかは、まだまだ解明すべき謎が残っています。いや、次々に新しい謎が生じてきているというべきでしょう。この謎に日々取り込んでいこうと思います。

Q4

学生へのメッセージをお願いいたします。

 「不思議だなあ?」「なぜかなあ?」「もっと知りたい!」と思うことはありませんか?社会や歴史の中のさまざまな事件や現象について「どうなっているのか、なぜなのか知りたい」と思う気持ち、これが文学部の学問の根幹です。学問とは単におりこうになるためではなく、自分自身を客観的に見つめ直し、他人に対しての想像力を養うためのいとなみだと、大げさかもしれませんが私は信じています。

教員紹介


氏名
佐々木 守俊
フリガナ
ササキ モリトシ
職種
教授
所属
文化史学科(2025年度より総合文化学科)
取得学位
博士(文学)
学位取得大学
東京大学
最終学歴
東京大学大学院博士課程(人文社会系研究科基礎文化研究専攻)修了
専門分野
日本美術史
研究テーマ
おもに平安~鎌倉時代の仏像や版画を対象とし、作品をとりまく人間関係や社会的・宗教的環境、特に中国からの影響を考慮しつつ、それらがつくられた事情や期待された役割をあきらかにすることを目標に研究している。特に近年は、仏像の内部空間に納入されたさまざまな物品を手がかりに、人々が仏像になにを期待したかを考察の主眼としている。
所属学会(役職)
及び受賞歴
美術史学会
密教図像学会
仏教芸術学会

【受賞歴】
美術館連絡協議会カタログ論文賞2010年「優秀論文賞」受賞
(論文名「救いのほとけ―おもに印仏・摺仏の像内納入について―」)
主要業績
【著書】
・『謎解き浮世絵叢書 歌川広重 保永堂版 東海道五拾三次』(町田市立国際版画美術館監修 二玄社 2010年)
・『平安仏教彫刻史にみる中国憧憬』中央公論美術出版 2017年
・『天皇の美術史』第1巻 古代国家と仏教美術(増記隆介・皿井舞と共著)吉川弘文館 2018年

【論文】
・「神護寺五大虚空蔵菩薩坐像の図像について」(『美術史』147  1999年)
・「安祥寺五智如来坐像について」(『国華』1306 2004年)
・「福寿寺千手観音菩薩立像と納入印仏」(『町田市立国際版画美術館紀要』10  2006年)
・「覚音寺千手観音菩薩立像と納入印仏」(『美学美術史学』22 2008年)
・「五台山「一万文殊」像から蓮華王院千体千手観音菩薩像へ」(『岡山大学文学部紀要』65  2016年)
・「広重の中国趣味」(『美術フォーラム21』34  2016年)
・「小仏像の像内納入について」(科学研究費助成金研究成果報告書 2020年)
・「法隆寺聖霊院聖徳太子及び侍者坐像と像内納入品」(板倉聖哲・髙岸輝編『日本美術のつくられ方―佐藤康宏先生の退職によせて―』羽鳥書店 2020年12月)
・「ウィーン世界博物館の阿弥陀三尊像について」(日高薫・ベッティーナ・ツォルン責任編集 大学共同利用機関法人 神現文化研究機構 国立歴史民俗博物館編『異文化を伝えた人々Ⅱ ハインリッヒ・フォン・シーボルトの蒐集資料』臨川書店2021年3月)
・「月輪の像内納入について」『仏教芸術』6号 中央公論美術出版 2021年3月)
社会活動、
文化活動等

・岡山市文化財保護審議会委員
・『尾道市史』執筆者