斉藤 悦子 教授
英語英文学科(2025年度より総合文化学科)
アメリカの文学・文化について学びます
希望をこめて建国された新しい国アメリカ。だからこそ個人の可能性をレジェンド化する「神話」があります。「神話」の形成期の小説や思想を研究しています。教員インタビュー
Q1
学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。
大学時代は外国文化(特に音楽)へのあこがれが強く、好奇心と若干向こう見ずな行動力にあふれていたと思います。何もしないでルーティンを繰り返すことに焦燥感があり、アルバイトをしてためたお金で格安の「行きと帰りの飛行機だけ団体で移動する」という生協のツアーで「3週間自由行動」というロンドン着、パリ発のツアーに参加し、34時間もかけて南周りでロンドンに行き、キューに並んで特急の切符を買い、靴が潰れるほど歩き、無謀にもホヤホヤの運転免許で国際免許を取り、エジンバラからネス湖周辺をドライブしました。半ばサバイバルの旅でしたが、一人で生きて行く自信をたくさんつけて帰ってきました。大学時代というのは、自分でいろいろやってみて、失敗やサバイバルの鮮烈な体験を通して自立へのてがかりをつかむ時期だと思います。その時の体験は院生時代の留学の体験とともに、今も人生の糧になっています。Q2
先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。
学部時代は心酔する英文学の指導教授がいて、17世紀の英詩人Andrew Marvellで卒論を書きました。卒論の研究は充実した時間でしたが、一方で宗教的背景が十分に理解できないことに限界を感じ、そのまま英文学を続けるかどうか悩んでいました。そんな時、自由な読書の中で出会ったマーク・トウェインの文学が、全く異質なもので、何か得体の知れない混沌とした深みを感じ、衝撃を受けました。そこで大学院進学を期にアメリカ文学の研究に変更し、『ハックルベリー・フィン』の研究を中心に19世紀アメリカ文学の研究に入りました。それがとてつもない茨の道であることを発見することにさほど時間はかからず、何度も頭をかかえましたが、やがて、背景にある時代性や、アメリカという特異な建国の事情を持つ国家が固執する独特の自己像の「物語」の存在に魅了され、今は19世紀のアメリカ思想とその「物語」の形成過程に着目して研究しています。Q3
研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。
アメリカは、土着の民が歴史の中で国家を発展させて行ったのではなく、西洋の移民が、土着の民を排除して建国した「新しいヨーロッパ」としての新天地です。しかし、英国から独立しなければならなかったために、ヨーロッパ的な封建制へのアンチテーゼとして、自由で平等なチャンスのある、民主的で勤労精神豊かな国、という、市民社会形成期の啓蒙主義の「物語」をイメージ戦略の柱に据える必要がありました。この物語はロマン派によって美化され、今でも受け継がれ、オバマ大統領当選の原動力にもなりました。いわゆるカウボーイの「西部」というのはその中で要になる文化イメージ群です。しかし、これが、商業的な背景の中で、驚くほど多層的なメディア・ミックスで作られたことは、あまり知られていません。トウェインはこの西部の物語の象徴的人物のように扱われましたが、実際は国家の虚構について多くの告発をした作家でした。そこに興味を持っています。
Q4
学生へのメッセージをお願いいたします。
学生時代は、自分に何かできるのだろうか、と不安になることも多いと思います。どうやって目標をもったらいいのだろう、自分は何がやりたいのだろう、何も決定できないことは歯がゆく、気だるいものです。心配いりません。そこは若さというステージです。あなたはそこでもがくでしょう。大学のいいところは、いろいろな方向へもがけるところです。じたばたして動き回ってください。教科書のない世界で、生身の書を読み、生身の先生と語り合い、できるかどうかわからないいろいろなことをやって、行ったことのないいろいろな所に行って、全人格的に学んでください。失敗したってへっちゃらです。恐れることはないのです。あなたはきっとそれをすべて吸収して視野をひろげ、いつか、経験と自信を手に入れて行くでしょう。それを見るのが私たちの喜びであり、楽しみなのです。教員紹介
氏名 | 斉藤 悦子 |
フリガナ | サイトウ エツコ |
職種 | 教授 |
所属 | 英語英文学科(2025年度より総合文化学科) |
取得学位 | 博士(人文学) MA / 修士(文学) |
学位取得大学 | Indiana University, Bloomington / 日本女子大学 |
最終学歴 | 日本女子大学大学院博士課程後期(文学研究科 英文学専攻)中途退学 |
専門分野 | 英語圏児童文学、ファンタジー文学 アメリカ文学 |
研究テーマ | 広義でのアメリカ文学の中で、合衆国建国期の自己イメージがどのようなレトリックで形成され、南北戦争後の「金メッキ時代」以降、独特なロマン主義的土 台から次第にさまざまな独自の神話形成につながっていったか、という過程をトウェイン、オルコット、などの19世紀の作家やDHロレンスのアメリカ論、 ポール・オースターなどの現代作家の作品を通して考察している。 |
所属学会(役職) 及び受賞歴 | 日本アメリカ文学会 新英米文学会 日本マーク・トウェイン協会 |
主要業績 | ・「喪失の幻影:The American Innocence(1)―『金メッキ時代』と児童文学―』 (清泉女子大学紀要53号)2005年12月 ・「Studies in Classic American Literature とD.H. Lawrence のアメリカ(清泉女子大学人文科学研究所紀要29)2008年3月 ・“The Narrative and the Icon: Paul Auster and the Representation of the Statue of Liberty”(新英米文学会New Perspective 190号pp.16-30)2010年2月 ・「喪失の幻影:The American Innocence(2)―フェニモア・クーパーと西部の物語の創造―」(清泉女子大学紀要59号pp.37-56)2011年12月 ・「喪失の幻影:喪失の幻影:TheAmerican Innocence(3)―階級意識と失われた西部―」(清泉女子大学紀要号60号pp.45-69)2012年12月 ・亀井俊介編『アメリカン・ベストセラー38』(分担執筆)丸善 1992年12月 ・フレデリック・ジェームソン著『近代という不思議―現在の存在論についての試論』(共訳)こぶし書房 2005年11月 |