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齊藤 文子 教授
スペイン語スペイン文学科(2025年度より総合文化学科)
スペイン語で書かれた小説の面白さを知ろう
スペイン語圏の文学を研究している。とくに16、17世紀スペインに興味があり、『ドン・キホーテ』が書かれた歴史・文化・社会的背景を探っています。
教員インタビュー
Q1
学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。
子供のころ、父の仕事の関係でブラジルのサンパウロに住んでいました。そのため、日本に戻ってからもラテンアメリカの世界に興味がありました。大学では文化人類学を専攻し、4年生のときにメキシコに一年間留学、卒論は、古代文明アステカの詩人たちとその詩について書きました。領土を拡大するために絶え間なく戦争を仕掛け、捕虜を生け贄にしてはその心臓を太陽神に捧げるという慣習をもっていたアステカ帝国。文字を知らない文化でありながら詩人たちがいて、無常感ただよう美しい詩を作っていたのです。指導教員からは、題材はそれでよいが、文学ではなく文化人類学の卒論なんだから、文化人類学らしいものを書くようにと言われましたが、私はその意味がよくわからず、結局自分が書きたいように書いて、なんとか卒業することができました。Q2
先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。
本を読むことが好きだったので、大学卒業後、出版社に就職しました。ちょうどそのころ日本でラテンアメリカ文学のブームが起こり、アルゼンチン、メキシコ、ペルーなどの作家の作品が次々と翻訳され、紹介されていました。文学とラテンアメリカ、私に関心のある2つのものがひとつになって、世の中で流行っていたわけです。翻訳されたラテンアメリカの小説を読みあさりました。3年間働いて出版社を退職し、心機一転、テキサス州ヒューストンにある、キャンパスの緑がまぶしい私立大学の大学院に入学し、ラテンアメリカ文学の勉強を始めました。しかし、人生計画通りにはいかないものです。スペイン文学の授業で読んだ『ドン・キホーテ』が思いのほか面白く、学期末レポートがうまく出来たということもあって、17世紀初めにスペインで出版された『ドン・キホーテ』とそれを書いたセルバンテスについて研究を始めることになりました。Q3
研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。
西洋の近代小説は『ドン・キホーテ』から始まったといわれます。いったいどういう社会的、文化的、文学的な状況のなかで、この小説の元祖が出てきたのでしょうか。まずは大前提として、印刷術の普及(それまで本は手で書き写すものだったので、ごく限られた人しか手に取ることができませんでした)と識字率の上昇(文字が読めない人は誰かに朗読してもらって、耳で聞く読書をしていました)がないと生まれてきません。また、当時流行っていた、不死身のヒーローが活躍する荒唐無稽な物語を批判し、違うものを書いてみようと考える作家の出現が必要です。それがセルバンテスでした。とはいえ元祖ですから、セルバンテスには明確なお手本がありません。いろいろなものを取り入れながら手探りしなければなりませんでした。『ドン・キホーテ』にはその模索の跡が見られます。この作品を読んでいると、新しいものを作るための試行錯誤の現場に居合わせているような興奮を味わえます。Q4
学生へのメッセージをお願いいたします。
私は大学生のとき、将来何をしたいのか、何をしたらよいかがわからず、落ち着かない不安な日々を過ごしていました。周りの人とうまくなじめず、自分の居場所はここではない、という気持ちから逃れられませんでした。あるとき授業で、日本とメキシコの交換留学制度のことを聞き、居場所がここでないなら、環境を変えてみるのもよいかもしれないと考えました。そこで思い切って留学することにしました。留学中は、授業の合間にメキシコ国内をあちこち旅し、さまざまな人と知り合い、多くのことを見聞きしました。帰国したとき、雰囲気が変わったとクラスメートたちに言われるほど、私にとって大きな経験となりました。将来が見通せず、不安に思っているみなさん、勇気をもって何か新しいことに挑戦してみてはどうでしょうか。結果が伴わなくても、挑戦のプロセスそのものが、みなさんの大きな糧となるはずです。
教員紹介
氏名 |
齊藤 文子 |
フリガナ |
サイトウ アヤコ |
職種 |
教授 |
所属 |
スペイン語スペイン文学科(2025年度より総合文化学科) |
取得学位 |
M.A. |
学位取得大学 |
ライス大学(アメリカ合衆国) |
専門分野 |
スペイン語圏文学 |
研究テーマ |
研究領域はスペイン語圏の文学。小説の背後にある社会が作品のなかでどのような形をとって現れているかに興味がある。とくに、17世紀初めのスペインで出版され、西洋近代小説はここから始まったとされる『ドン・キホーテ』と、同じ作者による『模範小説集』を中心に、歴史・社会・文学的背景と作品との関係を探っている。 |
所属学会(役職) 及び受賞歴 |
日本ラテンアメリカ学会
日本イスパニヤ学会 |
主要業績 |
【学術論文】 ・「騎士道物語の時間と『ドン・キホーテ』の時間」『Hispanica』34、pp137-149、1990年12月 ・「『ドン・キホーテ』のなかの読者——騎士道物語及び前編を読んでいるのはだれか」『Hispanica』46、pp66-79、2002年12月 ・「『ドン・キホーテ』最初の邦訳と渡邊修次郎」京都外国語大学イスパニヤ語学科(編)『〈ドン・キホーテ〉を読む』行路社、pp114-142、2005年3月 ・「『ドン・キホーテ』解釈の変遷」樋口正義・本田誠二(編)『「ドン・キホーテ」事典』行路社、pp66-78、2005年12月 ・「明治期におけるスペイン文学の移入——セルバンテスからアラルコンへ」板東省次・川成洋(編)『日本・スペイン交流史』れんが書房新社、pp344-361、2010年12月 ・「〈異なるもの〉への眼差し——セルバンテスの小説のなかの黒人」『Odysseus』22、pp121-138、2018年3月 ・「物語をどう読むか——セルバンテスの短編「血の力」の解釈と17世紀スペインにおける3つの翻案劇」『Odysseus』24、pp83-106、2020年3月 ・「セルバンテスが描くジプシー——盗人になるために生まれてきた?——」『Odysseus』26、pp5-26、2022年3月 ・「周縁者に声を与える:セルバンテスの作品のなかの妖術使いと魔女」『清泉女子大学紀要』71、pp29-44、2024年1月 【翻訳】 ・アルベルト・ルイ=サンチェス『空気の名前』白水社、2013年 ・ロベルト・ボラーニョ『はるかな星』白水社、2015年 ・(共訳)ミゲル・デ・セルバンテス「ジプシー娘」「血の力」「麗しき皿洗い娘」『模範小説集』水声社、2017年 |
社会活動、 文化活動等 |
・¡Dímelo! -- Español a través de internet, primer curso(教科書、共著) 朝日出版社、2006年4月
・Viajeros(教科書、共著)東京大学出版会、2008年3月 ・Brújula --Primer curso de español(教科書、共著)朝日出版社、2020年1月 ・「イサベル・アジェンデはなぜアメリカでも読まれるのか?」第3期異文化理解講座『ラテンアメリカ文学は何を語ってきたか 6』国際交流基金、2007年2月26日 ・「コロンブスと新世界」足羽三山文化協議会第3回講演会、おさごえ民家園(福井市)、 2009年9月26日 ・「『第三帝国』から『アメリカ大陸のナチ文学まで』——訳者三名がボラーニョの初期三作を読む」(トークイベント)、 MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店、2016年9月4日 ・「第61回 読んでいいとも!ガイブンの輪 豊崎由美×野谷文昭×斎藤文子×柳原孝敦×久野量一」(トークイベント)、B&B(東京下北沢)、 2019年8月17日 |