佐伯 孝弘 教授
日本語日本文学科(2025年度より総合文化学科)
西鶴・怪異小説・笑話を題材に学びます
日本近世(江戸時代)文学が専門。近世の小説、特に浮世草子や近世前期の怪異小説・笑話などについて研究している。講義では井原西鶴や近世怪異小説を扱う。教員インタビュー
Q1
学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。
実母が本好きで家に古い文学全集があり、父は仕事の虫で帰宅後もいつも机に向かっていました。そんな環境で育ったためか、小さい頃から本が好きで、将来は文系の研究者になって本に囲まれた生活をするのが夢でした。大学に入学してから教養課程の間に自分の進む専門分野を選ぶ大学だったので、日本文学以外にも、歴史学やら教育学やら心理学やら、色々な分野の本を乱読しました。アルバイトで、出版社の内勤をやったことが大変貴重な経験になりました。中学入試の正解集を出す小さな会社だったのですが、自分の書いた文章がそのまま活字になっているのを見て、日本人にありがちな活字信仰(=新聞・雑誌など活字になっていると鵜呑みにしてしまいがちなこと)から抜けて、自分で真偽を考えながら読めるようになりました。文章校正の仕方について働きながら学べたのも、有り難いことでした。
Q2
先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。
大学1、2年生の時にクラスメイトと日本古典の読書会を作って、『伊勢物語』『和泉式部日記』『建礼門院右京大夫集』『雨月物語』などを読みました。その中で江戸時代中期に上田秋成の書いた読本である『雨月物語』が私には抜群に面白く、夜を徹して一気に読み通しました。高校時代から古文・漢文は得意だったので古典を読むこと自体は好んでいましたけれども、ストーリーが面白くて夢中になって時を忘れて読んだのは初めてでした。「200年以上も前に、どうしてこれほど面白いものが書けたのだろう」と素朴な疑問を持ったのが、江戸時代(近世)の小説(特に浮世草子)を研究したいと思うようになったきっかけです。
Q3
研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。
大学時代の恩師が徹底した資料派の研究者で、且つ実に厳しくて怖い先生だったことや、浮世草子の研究会で長年御指導を受けた当該分野の大家の先生が厳密な実証主義、文献学の立場を取る方だったこともあり、若いうちに文献の扱い方や訓詁注釈の仕方を鍛えられたことは、(どれだけ厳密な研究ができているかは別として)今も私の骨肉となっていると思います。細かな語句の解釈が変わるだけで、作品の「読み」や主題の取り方までも変わったりします。まさに「神は細部に宿る」です。私の一番の専門の浮世草子という小説は、「浮世」とあるように現世描写に長け、当時の庶民の生活を活写しています。近世前期の怪談と笑話も専門としており、どちらも非日常の、常識や理性から脱したところの人間の本質を垣間見ることのできる点が魅力です。作品を通して当時の「人間」の生活や内面が知れることや、江戸時代の和本は個人でも買える範囲の物があるので、原資料に直に触れながら当時の人々と繋がることができるのも、近世文学研究の醍醐味です。
Q4
学生へのメッセージをお願いいたします。
学生時代は、おそらく人生で一番自由で溌剌とした時期です。ただし、ぼんやり過ごしていると、あっと言う間に4年間が過ぎてしまいます。学問にしろ、サークル活動にしろ、アルバイトにしろ、人との交友にしろ、自分から積極的になって、様々な経験から多くのことを学び取って欲しいと思います。そうして、自分の一生を左右するような貴重な「出会い」(人であれ本であれ)を体験して欲しいと願っています。大学生はまだ何の地位も肩書きもなく、一学徒に過ぎません。しかし、未だ何者でもないということは、言い換えれば何者にでもなり得る可能性を持っているということに他なりません。自分の価値と可能性を信じて、頑張ってください。
教員紹介
氏名 | 佐伯 孝弘 |
フリガナ | サエキ タカヒロ |
職種 | 教授 |
所属 | 日本語日本文学科(2025年度より総合文化学科) |
取得学位 | 博士(文学) |
学位取得大学 | 東京大学 |
最終学歴 | 東京大学大学院(人文科学研究科 国語国文学専攻)博士課程修了 |
専門分野 | 日本近世文学 |
研究テーマ | 日本近世小説、特に江島其磧の八文字屋本などの浮世草子を研究テーマとする。後続作者たちの西鶴享受や、浮世草子と噺本、読本・演劇などの他ジャンルとの関係、作中への実事件・モデル・巷説の取り込み等の視点から、浮世草子の趣向性や文芸性を考察してきた。近世前期の怪異小説や上田秋成にも関心を寄せている。 |
所属学会(役職) 及び受賞歴 | 日本近世文学会常任委員 日本文学協会 委員 全国大学国語国文学会常任委員 歌舞伎学会 |
主要業績 | ・「其磧の習作期の役者評判記」(『国語と国文学』80巻5号)2003年5月 ・「浮世草子に見る遊女の幽霊」(『江戸文学』33号)2005年11月 ・「近世前期怪異小説と笑い」(『笑いと創造第6集 基礎完成篇』勉誠出版)2010年12月 ・「浮世草子と京・大坂――西鶴・其磧を中心に――」(『日本文学』62巻10号)2013年10月 ・「『怪談御伽桜』の破戒僧」(『國學院雑誌』114巻11号)2013年11月 ・「豆男物の浮世草子―浅草や業平伝説との関係など―」 一柳廣孝監修・飯倉義之編『〈怪異の時空2〉怪異を魅せる』青弓社 2016年12月 ・「光源氏と世之介――「幻」巻と西鶴『好色一代男』最終章の比較から――」(久保朝孝編『源氏物語を開く』武蔵野書院 pp507~520)2021年3月 ・『八文字屋本全集』全23巻(共編、汲古書院)1992年10月~2000年10月 ・『江島其磧と気質物』(若草書房)2004年7月 ・『西鶴と浮世草子 研究』2号〈特集・怪異〉(共編、笠間書院)2007年11月 ・『浮世草子研究資料叢書』全7巻(共編、クレス出版)2008年11月 ・『古典文学の常識を疑う』(共編、勉誠出版)2017年5月 ・『浮世草子大事典』(共編、笠間書院)2017年10月 |
社会活動、 文化活動等 | ・大学入試センター試験作題委員(「国語」)2006年4月~同2008年3月 ・独立行政法人日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員及び国際事業委員会書面審査員 2011年8月~2013年7月 ・日本学術振興会より、当別研究員等審査会専門委員・国際事業委員会書面審査員としての審査業務に対し、「有意義な審査意見を付した専門委員」として表彰 2013年7月 ・大学評価・学位授与機構国立大学教育研究評価委員会専門委員 2016年1月~2017年3月 ・品川区情報公開等審議会委員 2016年1月~ ・品川区歴史館専門委員 2016年3月~ |