鈴木 直子 教授
日本語日本文学科(2025年度より総合文化学科)
小説という窓からジェンダーや社会を見ましょう
近現代女性文学・戦後文学・沖縄文学などを研究。ジェンダーや社会格差、サブカルなど、小説という窓から見えてくる社会や文化の諸相に関心を持っています。教員インタビュー
Q1
学生時代の思い出や打ち込んだことについて教えてください。
それまで知らなかった本当にたくさんのことに出会い学んだ、嵐のような毎日でした。仲間と自主ゼミや読書会(と称する飲み会)で社会問題やジェンダーについて夜明けまで語り合ったことは、今でも強烈に脳裏に浮かびます。いろんなジャンルの文学・音楽・演劇・映画に片っ端から触れる一方、アジア・アフリカを知るためと称して、世界中のエスニック料理を食べたり作ったり。障がい者の生活介助ボランティア、日雇いの人々が集まる町での炊き出しも体験しました。あのころに考えたこと、出会った人々が、現在の私の思考の根底にいつもあります。サークルは「室内楽の会」でバイオリンやビオラを弾いていました。オーケストラとは違って小編成の合奏で難しいですが、ぴったり合った瞬間は格別です。合宿で一晩中、モーツァルトからラヴェル、ショスタコーヴィチまで弦楽四重奏を初見(初めてその場で譜面を弾くこと)で弾き続けたことも。タンゴやジャズ・近世邦楽など、多様な音楽に出会ったのも良い思い出です。
Q2
先生が、ご自身の専門に取り組むようになったきっかけを教えてください。
高校生の頃はいわゆる「国語」が苦手でした。小説も映画も大好きではありましたが、読んでいたのはトルストイから赤毛のアン、SFまで海外のものばかり。今思えば、教科書に載る作品は男性文学ばかりで、「それから」も「舞姫」も、ジェンダーの視点を欠いたまま読むことの苦痛に耐えられなかったのだろうと思います。大学でフェミニズムとジェンダー理論、文化研究の方法などに出会い、それまで日本近代文学に漠然と抱いていた違和感がはっきりしました。作品を批判的に読むことで、作者の意図からこぼれ落ちた無意識の操作や、書かれた時代の社会の様相が見え、それはそのまま、現代社会を知ること、批判的に捉えることにも繋がります。
Q3
研究テーマの魅力や面白さはどのようなところにありますか。
私が魅力を感じるのは「マイナー文学」です。マイナーと言っても、単に知られていない作家ということではなく、既成の文学史からは見えにくい、正当に価値づけられていない文学のことで、ドゥルーズ&ガタリという思想家がカフカについて説明した概念です。カフカはドイツの辺境チェコスロバキア生まれのユダヤ人ですが、チェコ語でもヘブライ語でもなく、ドイツ語という「メジャーな」言語で小説を書きました。親しみのある母語ではなく、習い学んだ支配者側の言葉で書かざるを得ないことが、世の中にはたくさんあります。
大城立裕など近代沖縄の作家は沖縄語(ウチナーグチ)ではなく日本語を書きことばとして選んできましたが、そこにはどのような沖縄の人々の思いがあるのか、考えながら読むことで、日本語・日本文学の世界も別の次元へとひらけていくような気がします。
大城立裕など近代沖縄の作家は沖縄語(ウチナーグチ)ではなく日本語を書きことばとして選んできましたが、そこにはどのような沖縄の人々の思いがあるのか、考えながら読むことで、日本語・日本文学の世界も別の次元へとひらけていくような気がします。
Q4
学生へのメッセージをお願いいたします。
文学も映画もアニメも虚構の物語であり、現実そのものではありません。でもどんなに現実とかけ離れているように見えるハイ・ファンタジーでも、そこには社会と人間の真実を凝縮した何かが確かに表現されています。虚構の表現が、現実のどんな社会の姿と結びついているのか、確かめながら読んでみたら、もっと面白くなると思います。また、文学は道徳ではありません。ダメなこと、正しくないこと、ひねくれた考えもたくさん書かれています。でも、そんなダメなことばかり考えてしまうのも、人間の真実なのでしょう。登場人物のダメさ加減を現在の読者の地点から断罪するのではなく、そう描かざるを得なかった文化的時代的状況に思いを馳せてみることで、見えてくるものもあると思います。小説という窓を通して、人間の歴史・社会・文化の真実を一緒にのぞいてみませんか?
教員紹介
氏名 | 鈴木 直子 |
フリガナ | スズキ ナオコ |
職種 | 教授 |
所属 | 日本語日本文学科(2025年度より総合文化学科) |
取得学位 | 博士(文学) |
学位取得大学 | 東京大学 |
最終学歴 | 東京大学大学院博士課程(人文社会系研究科日本語日本文学コース)修了 |
専門分野 | 日本近現代文学 ジェンダー論 |
研究テーマ | 日本近代文学と戦争・ジェンダー・表象 島尾敏雄・大城立裕など戦後作家たちの戦争および家族表象、またその表現の戦略。 平塚らいてう・円地文子・倉橋由美子など女性表現者とジェンダーポリティックスをめぐる諸相。 |
所属学会(役職) 及び受賞歴 | 日本近代文学会 昭和文学会 |
主要業績 | ・「リブ前夜の倉橋由美子 ― 女性身体をめぐる政治」北田暁大・野上元・水溜真由美編 『カルチュラル・ポリティックス 1960/70 』(せりか書房)2004年12月 ・「シマオタイチョウを探して ― ヤポネシア論への視座」高阪薫・西尾宣明編 『南島へ南島から 島尾敏雄研究』(和泉書院)2005年4月 ・ 「太宰治「嘘」論 ― 挫折する〈愛国〉、呪詛される〈女〉」『太宰治研究』(和泉書院)13号 2005年6月 ・「円地文子と『源氏物語』 ― 女流という磁場をめぐって」『国文学解釈と鑑賞』(至文堂)73巻5号 2008年6月 ・「高度成長と〈女流作家〉― 林真理子『女文士』における女のエクリチュール」『日本文学』59巻11号 2010年11月 ・ 「島尾敏雄と太宰治 ― 虚構の誘惑、影響の不安」『太宰治研究』(和泉書院)20号 2012年5月 ・ 「大城立裕におけるアイデンティティと言語 ― 二つの「カクテル・パーティー」をめぐって」『青山学院女子短期大学 総合文化研究所年報』21号 2013年12月 ・「平塚らいてうと玄米食 ― 食・身体・ナショナリズム」『思想』(岩波書店)1118号 2017年6月 【翻訳】 ・M.モラスキー著『占領の記憶/記憶の占領』(青土社 2006年) 【研究発表】 ・「八〇年代女性文学と欲望の〈主体〉」(シンポジウム「〈若者〉と文学 一九八〇年代を中心に」(パネラー)日本近代文学会春季大会(聖心女子大学 2014年5月) |
社会活動、 文化活動等 | ・講演「平塚らいてうと平和思想」(青山学院大学公開講座「女性と平和」 2006年) ・講演「太宰治が描く女と男」(足立区女性セミナー 2010年9月) ・講演「20世紀日本文学における女性と創造力」(青山学院大学公開講座「女性と創造力」 2014年5月10日) ・講演「太宰治が描く女性」(墨田区すずかけ講座 2014年6月27日) ・講演「日本近代文学と食・ジェンダー・ナショナリズム」(青山学院大学公開講座「文学と社会」 2018年6月9日) ・講演「今読み直す島尾敏雄 資料とともに」(埴谷・島尾記念文学資料館 2018年7月14日) |